この記事は約14分で読めます。
この記事はコロナ禍・ウクライナ戦争・インフレ・安倍派崩壊の四つの切り口で2020年代前半の日本政治史を描きます。3分要約版の記事もあります。
コロナ禍―「新しい生活様式」が生んだ政治不信と専門家不信
この記事ではその後の政治への影響という点に関心を限定してコロナ禍を考えます。
コロナ禍の政治の特徴は、「新しい生活様式」の名の下に、緊急事態宣言、外出・営業自粛、マスク着用、ワクチン接種など、私たちの生活に大きな影響を及ぼす実質的に強制的な措置が数多く行われたことです。
もちろん、これらにはそれなりの理由があったわけですが、このように生活に大きな変化を強いる(実質)強制的な措置を政治が実行すれば、それによって生活が変更させられる人々から大きな反発が生じるのも自然なことです。その最初の帰結の一つが、長期一強政権を築いた安倍晋三の2020年8月の退陣であって、それを引き継いだ菅義偉政権も一年ほどで力尽きることとなりました。
その後の政治への影響ということで大きいと思うのは、このような反発が一部で激しい政治不信や専門家・メディア不信を生み出したことです。生活を根底から変える政府の強力な措置と、それを側面支援する専門家やメディアの一方的な情報発信。生活の変容に不満を持つ層からすると、これが既存の政治・メディア・専門家への不信を強固なものにしました。
参政党が初めて国政に議席を得た2022年の参院選で、参政党が相当に突飛なものも含めて反ワクチンなどのコロナ不満層の支持を得ることで国政に最初の橋頭堡を確保したことは、この点で示唆的です。
私は個人的にはコロナ政策には大きな不満を持っていないのだが、2019年に積極財政派になって以来、6年経っても相変わらずのメディアの緊縮財政的な論調には呆れ果てており、そこから既存の政治・メディア・専門家へは強い不信感を持っています。
ウクライナ戦争―護憲左派の賞味期限(?)
2020年がコロナ禍の年で、2021年がワクチンとコロナ禍からの正常化の年だとすれば、2022年はウクライナ戦争の年だったといえるでしょう。このウクライナ戦争が日本政治に及ぼした影響を考えましょう。
ウクライナ戦争は日本国民に衝撃を与えましたが、この衝撃について、さっと思いつく論点を挙げてみましょう。
まず第一は、日本人の「名誉白人」的な自意識でしょう。これまで戦争は世界各地にずっと存在しました。ただ、日本人にとって、それは東南アジア・中東・アフリカなど「自分たち(白人先進国)の世界」の外部の出来事であって、今回ヨーロッパで本格的な戦争が起きたことで、日本人は「自分たち(白人先進国)の世界」でも戦争が起きうることに驚いたのです。この驚きは白人先進国全体で起きたことですが、日本もそれを共有していたように思うのです。
第二は、戦後日本人の主流を占める親米保守の視点の支配力です。これまでアメリカも散々戦争を起こしてきましたが、日本社会の主流はそれをなんだかんだ正義のある戦争だと思ってきたように思います。それは秩序破壊的であるよりは秩序維持的なものだと思ってきたのです。それに対して、今回はアメリカならぬロシアが起こした戦争であって、そのためにそれはとりわけ不正義・秩序破壊的に見えたのです。その秩序破壊性に日本人は驚いたといえるでしょう。
第三は、ウクライナと台湾のアナロジーです。今日のウクライナは明日の台湾。日本人の主流の意識としては、アメリカは味方なのに対して、中国とロシアはうっすらと敵であって、そのロシアがウクライナに攻め込んだということは、中国が台湾に攻め込んでもおかしくないということになります。そうすると日本も巻き込まれなかねない。そうして危機感が一気に高まったのです。
そして、これらの衝撃が政治に与えた影響としては、やはりなんといっても護憲派の説得力の低下が大きいように思われます。
そもそも憲法九条は日本が戦争を起こさないための条文ですが、それに加えて反米的な左派はこれがあればアメリカの戦争に巻き込まれないといって、憲法九条を擁護してきました。この後者の論点は確かに正しいでしょう。韓国はベトナム戦争に参戦しているからです。
しかし、今回のウクライナ戦争は、日本が戦争を起こすのでも、アメリカが戦争を起こすのでもなく、他の大国が戦争を起こすという事態であって、それが先のウクライナと台湾のアナロジーで日本が巻き込まれる戦争が起こされるかもしれないという危機感に繋がりました。そうすると護憲派が掲げているような非武装平和主義的な方向性の立場は、さすがに説得力が落ちてしまわざるを得ません。左派はいまだに日本の軍拡を批判しますが、「軍拡批判なら天安門広場で(日本など比較にならない軍拡をしている)中国に対して言ってこい」という話になってしまうのです。
ウクライナ戦争から汲み取るべき教訓は、私にとっては以下のようなものです。
核保有国が他国を侵略した場合、他の国は参戦してくれません。核戦争・第三次世界大戦が起きるという理由によって。他の国がしてくれるのは武器供与程度なのです。その武器供与も負けも勝ちもしない程度です。勝ちもしないというのは、勝ちそうになると、核保有侵略国がヤケになって核を使うかもしれないからです。結局、核保有国に侵略された国は武器だけ渡されて延々と国民をすりつぶしながら決定的に負けることも勝つこともないまま戦い続けることになります。この中で、残酷なことに、武器供与をする国は敵対する核保有国の国力が徐々に削がれていくことを密かに喜ぶかもしれません。
以上の教訓からして、私は原則論としては核武装論者ですが、核武装すれば相対的に安全になるものの、核武装しようとする過程が、国際関係上、極めて危険であることもまた否定はできません。だから現実論としては、米国の容認、米国の核の傘のもとに核武装へと進んでいくことしかできないはずであって、まずは独自核武装を議論することで核共有へと米国を動かしていくことが先決であると思います。その後は、核共有で経験や信頼を積み上げていきながら、東アジアの安全保障環境が改善せず、米国が孤立主義的になっていく過程が続くという条件が満たされるならば、独自核武装へと段階的に進むということを展望する必要があるでしょう。また、日米韓の連携を前提として、韓国とは同時核武装が望ましいと思われます。
ただし、ウクライナと台湾のアナロジーからすると、日本の位置はせいぜいポーランドであることも冷静に評価しなければなりません。台湾が中国に侵攻されることはあっても、日本が直接に中国に侵攻される可能性は極めて低いでしょう。問題は中長期的に軍事力の脅しによって従属的な立場に陥ることを防ぐことです。そもそも米国への従属的な立場も望ましくないし、プラザ合意以降はそれが日本にとって大きな桎梏となったと思うのですが、現在の中国の体制や姿勢を考えると、この新たな従属は米国へのそれよりもだいぶ悪いものになりかねないのです。
このこの状況にどう対処するかは難問ですが、いずれにしても、反戦平和主義の立場から憲法九条護憲を言っていれば、それがいくらかでも説得力を持つという時代は明白に終わりを告げたように思うのです。
インフレ―コロナ後のインフレの原因・現況・対処法
上記の二つ、コロナ禍とウクライナ戦争によって引き起こされた次なる問題が、世界的なインフレです。
この近年のインフレについて詳しく考えてみましょう。日本における今回のインフレは完全に輸入物です。今回のインフレは欧米発でした。この欧米のインフレの要因を整理してみましょう。
始まりはコロナ禍です。まず供給面では、コロナ禍のロックダウンで各国で事業活動が一時ストップするなどサプライチェーンが混乱したことに加え、需要面では、外出ができないことからサービスからモノへの需要のシフトがありました。
さらに多額の現金給付を含む積極的な金融・財政政策が需要を押し上げることになりました。そして、財政政策面では多額の現金給付、金融政策面では金融緩和の結果としての資産バブルが、それらを当てにした長期の離職を生じさせ、労働供給を制約することになったのです。
このようにして、コロナ禍のロックダウンという特殊事情と、それに対する政策対応が、それぞれ供給能力の低下と需要の増大を引き起こし、インフレの種を撒いたのです。
そこにロシアによるウクライナ侵攻が生じ、原油等のエネルギー価格や小麦価格が急騰、それがコロナ後の高インフレを最終的に決定的なものにしたのです。それは主因ではなく、最後の仕上げにすぎませんでした。
日本はというと、欧米と違って、コロナ禍のインフレはほぼ存在しませんでした。米英独はコロナ元年(2020年)の翌年2021年の春頃には顕著なインフレが始まっていたのに対して、日本でそれが始まったのは、2022年2月にロシアのウクライナ侵攻が始まった後、2022年の春からです。この事情は日本におけるデフレ圧力の強さを感じさせます。以下のCPIのグラフは、赤が日本で、他が英米独です。

さて、では日本の遅ればせのインフレの原因はというと、日本に影響の大きい原油価格が急騰したことに加えて、欧米がインフレ対策で高金利政策を取り始めるなか、ひとり(インフレ率がまだそれほど高くないので)低金利政策を取り続けた日本の円が独歩安になり、海外のインフレで輸入品そのものの価格が上がっていることに加えて、円安分の輸入価格上昇の影響も出始めたことです。
ここでエネルギー等の輸入商品そのものが値上がりしていることに、円安による輸入価格の押し上げ効果が加わり、日本でも高インフレが生じ始めたのです。
とはいえ、欧米のインフレ率が年率10%程度まで達したのに対して、日本のインフレ率は最大でも4%程度に過ぎませんでした。そして、いまでは、コロナ禍の特殊要因が減衰し、欧米で高金利政策が効果を発揮したと思われることもあって、欧米のインフレ率も2~3%程度まで落ち着きつつあり、さらに欧米での利下げも始まって、円安傾向も一服した感があります。現状では、円安・インフレを過度に心配しなければならない状況にはないでしょう。
むしろ、ここ最近の輸入インフレによる実質賃金の下落から、家計の節約思考が強まり、輸入インフレの効果の剥落とともに、日本経済が一転して再びデフレに落ち込むリスクも相応にあるのではないでしょうか。
以上を要約すれば、日本のインフレは海外発のもので、インフレ自体が輸入物です。そうである以上、欧米のインフレが落ち着いてしまえば、日本のインフレも落ち着いていくでしょう。そして、日本独自の要因からみれば、むしろデフレ傾向の方が強いようにすら思われるのです。
さて、政府と日銀は、この輸入インフレを奇貨として、物価と賃金の好循環を起こそうというアクロバティックな戦略を取っています。物価の上昇に合わせて賃金を上げ、それがまた物価の上昇につながるというスパイラルの形成です。
しかし、円安で利益を増やしている輸出大企業は別として、中小企業は輸入インフレのコスト高に苦しんでおり、インフレに見合う賃金上昇は難しいはずです。その結果が、結局は数年続いてしまっている実質賃金の下落でしょう。物価上昇に賃金上昇が追いついていないのです。
そして、実質賃金が下落するなら財布の紐が固くなるのは当然であって、輸入インフレの影響が剥落した後にはデフレ圧力が生じてくるのです。
だから、今般の物価高への正しい対策は、各種の減税等によって物価高の負担増を相殺することです。もちろん、減税による購買力増大はインフレ要因ですが、現下のインフレは購買力主導のインフレではなく、また輸入インフレの要因も弱まっていることから、減税規模には注意を払う必要はあるものの、インフレの方を過度に心配する状況にはないと思われます。
また長期的なインフレ対策としては、今回の円安が米国の利上げから始まったことを考慮して、日本も利上げができるように十分に積極的な財政政策によって国内経済の需要を強化すること、そして海外のインフレや円安に影響されにくいように、食料やエネルギーの自給を目指す生産効率化や技術開発などの供給力強化を進めることこそが根本解決であって、こちらにも政府による積極的な財政政策が求められます。これらも実際の支出を伴うことで目先はインフレ圧力になりますが、長期的なインフレ防止のためには必要なことです。
積極財政派は、インフレが暴走しかねない状況では積極財政を主張しませんが、いまはそのような状況ではなく、むしろ積極財政こそが問題の本質的な解決策になると私は考えています。
そして、この世界的なインフレをもってしても、私はデフレ・レジーム論を撤回する必要はないと考えます。産業革命から現代までの生産性向上は圧倒的であって、ロボット化による第一次・第二次産業の自動化、自動運転化による運送・交通の自動化、AIによる事務作業の自動化など、今後の生産性向上の見通しも明るいのです。この供給能力の向上に匹敵する需要増が見込まれるとは思わないのです。需要の方もますます追加的な供給コストがほぼゼロであるデジタルなものに向かっていくとすれば、なおさらです。目先の事情によって歴史の大勢を見誤ってはならないでしょう。
さて、少しインフレについて長く論じすぎました。インフレの政治的な影響は、与党に逆風になるということです。特に好景気ゆえのインフレではなく、単にコスト増加によるインフレであり、実質賃金が下がるインフレであるからには、当然そういうことになるはずです。
そして、ポイントはこれが相対的に若い世代、いわゆる現役世代の政治的覚醒の背景となったという点です。失われた30年における賃金停滞と負担増で余裕がなくなっていたところ、最後にやってきた物価高でついに現役世代のお尻に火がついたのです。
安倍派崩壊―安倍元首相の死・国葬儀・「裏金」・石破政権
この物価高による国民の不満を一つの背景として引き起こされた重大な政治変動が安倍派の崩壊です。
衆参両院の圧倒的多数を握って長期一強政権を築き、平成の政治改革で目指された保守二大政党制をネオ55年体制へといわば先祖返りさせた安倍晋三、その安倍晋三が自民党内での最大派閥にまで育て上げた安倍派が2022年から2025年にかけて一気に崩壊していったのです
これはいくつかの段階において生じました。その始まりは2022年7月の参院選直前の安倍の殺害です。統一教会に家族を壊された青年が、統一教会と一定の関係を持っていた安倍晋三を一種の逆恨みによって殺害した事件です。
この事件には政治家という仕事の難しさが凝縮して現れています。政治家は幅広い支持を得るためにいろいろな団体にいい顔をしなければいけません。統一教会はいくらかの票数を持っていたことに加え、選挙で無料のボランティアを買って出ることで、その票数以上に政治家に貢献していたとされます。
他方、そのような団体もタダで協力してくれるわけはありません。何か見返りの利益誘導や政策実現を求めたり、あるいは政治家との関係を権威づけとして利用したりするでしょう。
だから、政治家はさまざまな団体にいい顔をしなければならないと同時に、その団体の素性をしっかり見極めなければいけません。その団体が悪辣で恨みを買うような団体であれば、政治家はその影響力ゆえに、いわば道連れ的に恨みを買うことになりかねないからです。
さて、この事件で安倍は明確に被害者なのですが、安倍に負かされ続けた左派陣営には安倍への恨みがよほど蓄積していたのでしょうか、「統一教会のようなとんでもない宗教と繋がっていた安倍の自業自得だ」というような論調が聞かれることになりました。
そのため、殺害直後の参院選は同情票で自民党が圧勝したものの、その後の安倍の国葬儀については国論が二分される事態となり、それが菅政権を引き継いでいた岸田政権の支持率を低下させました。
その後、岸田政権の支持率は翌年2023年の5月のG7広島サミットに向けていったんは上昇していくものの、このころから2022年に始まったインフレの影響が意識されるようになって再び低迷、2023年の年末に安倍派のいわゆる「裏金」事件が発覚して急落することになります。
このいわゆる「裏金」事件とは、いかなる事件なのでしょうか。安倍派では、各議員にパーティー券販売ノルマがあり、そのノルマを超えた販売分については各議員の取り分としていたのですが、この取り分が各議員の収支報告書に記載されていなかったというのです。それが報告書に載らない裏金だと騒がれたのです。
この事件の発覚から長く経って、何か実際に裏金が決定的にマズい仕方で使われたという話は出てきていません。大半の裏金議員は特に問題のある使い方はしていなかったようです。
そんなわけですから、「裏金」といったところで実際にその悪質性がどれほどのものかということには大いに疑念があるのですが、にもかかわらず、この事件がこれほどの大ごとになったのは、実質賃金が低下する物価高の中で生じた、数百万・数千万を入れようと思えばポケットに入れてしまえる自民党国会議員への反発と、これまでの安倍派の強大な権力が各所(メディア・野党・党内野党)から買っていた恨みつらみの蓄積があったからでしょう。それはいわば『平家物語』以来変わることのない「盛者必衰の理」です。
この流れのなかで安倍派を含む大部分の派閥が解散させられることとなりました。さらに、その後の自民党総裁選では第二次安倍政権の途中以降ずっと党内野党で反安倍の急先鋒だった石破茂が当選します。安倍派の議員はその後の総選挙で非公認や比例重複不可となって、壊滅的な打撃を被ることになったのです。
安倍の死後、これまでに買ってきた恨みつらみと物価高への不満が爆発した結果、安倍派は「裏金」事件で解体にまで追い込まれ、さらに反安倍の石破が党を掌握する党内政権交代が生じ、安倍派勢力は最後には選挙を通じて壊滅的な打撃を被ることになったというわけです。
西田昌司があるところで述べていたことによると、安倍は退陣後に今度こそは本当に分かったといって、積極財政への思い、財務省との対決姿勢を固めていたようです。安倍が殺されることになった参院選後には財政赤字を原則禁じる財政法四条の改正をやろうとも言っていたようです。私は積極財政派として、安倍が生き延びて三回目の登板をしたり、しないまでも影響力を行使し続けた方が、少なくとも財政政策面では日本はよくなったのではないかと思っている人間です。


※コメントは最大500文字、5回まで送信できます